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Amazon Bedrock Knowledge Basesで実現するRAG:社内データと生成AIの簡単連携

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ビジネス、教育、エンターテインメントなど、多岐にわたる分野で生成AIの活用が拡大しています。一方で、AIが事実と異なる回答をする「ハルシネーション(幻覚)」が課題となり、企業では正確な自社データとAIを組み合わせた活用ニーズが高まっています。これらのニーズに応える技術が、RAG=検索拡張生成です。

AWSの「Amazon Bedrock Knowledge Bases」は、特別なプログラミングスキルなしで、自社データと生成AIを連携し、迅速なRAG構築を可能にするマネージドサービスです。本稿では、生成AIの課題、解決策としてのRAG、そしてBedrock Knowledge Basesの特徴と活用方法について解説します。

生成AIが抱えるハルシネーションの問題

生成AIは、プロンプトとして与えられたテキストから次の単語の確率を計算する仕組み上、事実と異なる回答、いわゆる「ハルシネーション」や「幻覚」と呼ばれる現象が生じることがあります。

例えば、「2023年に発表されたAWSの生成AIサービスは?」という質問に対し、実際には存在しないサービス名を生成してしまうことがあります。これは、AIが学習データにない情報を生成してしまうためです。

企業が生成AIをビジネス活用する上で、この問題は深刻です。正確性が求められる業務でAIの回答に誤りがあれば、誤った意思決定や顧客への誤情報提供につながります。

RAGとベクトル検索による解決

この問題の効果的な解決策が「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」です。RAGは、質問に関連する正確な情報を含むドキュメントを検索し、その内容と質問を生成AIに読み込ませ、一時的な情報学習により、信頼性の高い回答を生成する手法です。

RAGの中核となるのが「ベクトル検索」です。これは従来の全文検索とは異なり、言葉や文章の意味を数値ベクトルに変換し、意味の類似性に基づいて情報を検索する手法です。この技術により、「焚き火のそばに座るのにちょうどいい場所は?」という質問に対し、「椅子」や「ソファ」といった質問文に含まれない意味的に関連する概念を検索できます。

RAGの流れは以下の通りです。

  1. ユーザーが質問を入力
  2. システムがベクトル検索で事前に準備されたドキュメント群を検索
  3. 検索結果と元の質問を生成AIに提供
  4. 生成AIは受け取った社内ドキュメントを参照して回答を作成

例えば、「当社の新製品Xの特徴は?」という質問に対し、製品Xの正確な情報を含む社内資料を検索・参照することで、生成AIは事実に基づいた回答を提供できます。

RAGのメリットは明確ですが、自前での構築には、データ分割(チャンキング)、ベクトル化、データベース構築といった複雑な手順が必要です。このハードルを下げるのがAmazon Bedrock Knowledge Basesです。

RAGをマネージドで実現するAmazon Bedrock Knowledge Bases

Amazon Bedrock Knowledge Basesは、基盤モデルと自社データソースを組み合わせたRAGをフルマネージドで実現するサービスです。AWSでは、API経由で様々なAIを利用できるマネージドサービス「Amazon Bedrock」を提供していますが、Knowledge Basesはその中でもRAG構築に特化した機能です。

複雑なベクトル検索の仕組みやAIモデルとの連携をAWSがインフラから管理するため、開発者はシステム構築の複雑さやインフラメンテナンスの手間を気にせず、ビジネス価値の創出に集中できます。

特におすすめは「ドキュメントとチャット」機能です。文書ファイルをアップロードするだけで、RAGの効果を体験できます。例えば、社内マニュアルをアップロードし、「新入社員の研修手順は?」と質問すると、AIはマニュアルの内容に基づいた正確な回答を返します。技術的な知識がなくとも、生成AIと自社データの連携によるRAGの効果を体験できます。

Knowledge Basesの主な機能

Knowledge Basesは、Amazon S3などのストレージや、Confluence、Salesforce、SharePointなどの業務ツールからデータを取り込めます。PDF、Word文書、PowerPointなど多様なファイル形式に対応し、ドキュメント内の図表もAIでテキスト化できます。

データ検索の精度向上のため、文書を適切に分割する「チャンキング」機能も重要です。固定サイズの基本分割に加え、検索精度と情報欠落防止を両立する「階層型チャンキング」や、文脈を維持する「セマンティックチャンキング」など、用途に応じた分割方式を選択できます。

Knowledge Basesには、実現したい仕組みに応じて2種類のAPIがあります。検索から回答生成までをワンストップで提供する「RetrieveAndGenerate API」と、検索結果を独自に処理できる「Retrieve API」です。前者は迅速な開発に、後者はカスタマイズ性を重視する場合に適しています。

Knowledge Basesの具体的な活用例

  • カスタマーサポートの効率化と品質向上:過去の応対記録、FAQ、製品マニュアルをデータソースとし、顧客からの問い合わせに対し高精度な回答を生成。新人オペレーターでも熟練者と同等の回答を提供可能。
  • 社内ナレッジの一元化と活用促進:社内Wiki、議事録、業務マニュアルを取り込み、自然言語検索環境を提供。「先月の経営会議で決まった新プロジェクトの担当者は誰?」といった質問にも即座に回答可能。
  • 製品マニュアルのインタラクティブ化:製品マニュアル全体をチャット形式で利用可能。「この製品の省エネモードの設定方法は?」「その設定は電池寿命にどう影響しますか?」といった質問に対応。

データ品質と準備の重要性

RAGシステムの精度を高めるには、データ品質と準備が重要となります。単にデータを投入するだけでなく、メタデータを活用したフィルタリングも検討しましょう。文書の種類、部門、日付などのメタデータを付与することで、「営業部の最新マニュアルのみ」といった絞り込み検索が可能です。

また、チャンク分割の最適化も重要となります。短い質問には小さなチャンクが適している一方、文脈理解が必要な場合は大きめのチャンクが有効です。階層型チャンキングを使えば、検索精度と情報網羅性のバランスを取ることができます。

効率的な運用とコスト管理

Knowledge Basesは、データ量やAPIコール数に応じた従量課金制を採用しています。大量のデータを扱う場合はコスト管理も重要です。必要なデータに絞ったり、アクセス頻度の低いデータは別の方法で管理するなど、コスト効率を考慮した設計が必要です。

データ更新の頻度も検討ポイントです。Knowledge Basesでは増分更新が可能なため、データ変更時に全体を再構築する必要はありません。更新頻度が高い場合は、更新プロセスの自動化も検討すべきでしょう。

生成AI活用の効率的で効果的なスモールスタートに

Amazon Bedrock Knowledge Basesは、生成AIのハルシネーション問題を解決し、自社データと安全に連携させるためのマネージドサービスです。複雑なベクトル検索の実装を気にせず、多様なデータソースから情報を取り込み、高精度な回答を生成するRAGシステムを簡単に構築できます。

  • 簡単なヘルプデスク機能から、本格的で人間並みの支援をする業務システムまで、幅広い用途に適用可能
  • 手元のドキュメントを活用し、スモールスタートが可能
  • 効果の実体験とノウハウ蓄積を通じ、カスタマーサポート、社内ナレッジ活用、製品マニュアルのインタラクティブ化など、様々な業務シーンでの活用が期待

データとAIの効果的な連携により、業務効率化と価値創出を実現したい企業にとって、Amazon Bedrock Knowledge Basesは強力なツールとなるでしょう。

Written by
編集部

Serverless Operations編集部

Editing Department

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