クラウドにしたのにコストが下がらない?
クラウド上でのシステム開発化の内製化という話で、一番みなさん関心をお持ちなのが、コスト面でのメリット、とりわけ人的コストと管理コストの削減にどの程度つながるのか、という点です。
例えば、基幹系や業務系のシステムをクラウド上の仮想環境での開発・運用を外注されている事業会社において、特にそのあたりを課題に感じていらっしゃるケースがよくあります。詳しくお話しを伺うと、オンプレミスからAWSへ移行した結果、Amazon EC2やAmazon RDSをベースに構成されたアプリケーション群が雪だるま式に乱立していくようなパターンが多いようです。
こうしたケースでは、システム開発を外注業者に委託しているため、アプリケーションの運用に必要なクラウド関連の固定費に加え、その数に応じた保守運用コストも比例してかさんでいきます。システムを開発すればするほど、ひたすらコストが積み上がる構造に陥っているわけで、コスト面が足枷になってサステナビリティを担保できなくなっている状況です。
保守運用のコストは、ビジネス上の新たな付加価値を生み出すことに直結するような、本質的な作業ではありません。単純なサーバーやアプリケーションの「お守り」をするだけでは、ビジネスが成長することは基本的にありません。既存のビジネスを成長させる施策であったり、新規事業創出への取り組みであったりと、より本質的な業務にリソースを回せるようにすることが大事です。そのために有効なのがサーバーレスです。
導入事例でもご紹介している、北海道テレビ様の生成AIを活用した記事自動生成システムを導入したケースでも、その取り組み以前に映像配信などの既存システムをサーバーレス化したり、新規開発を内製化したりすることによって、50%以上のコスト削減を実現しています。AWS&サーバーレス化+内製という組み合わせで、できるだけ固定費をかけない状態を実現できるのです。
単純に人員コストだけを考えてみましょう。内製化することによって、同じ工数ならば外注先の利益分や諸経費分が浮くことになります。コミュニケーションコストやプロジェクトマネジメントコストといった可視化しにくい部分も、内製化した方が圧倒的にコスト面で有利になります。事業会社内で完結できれば、ビジネスモデルから社内用語や業界用語、業界内の慣習、自社の商品・サービス特性といった、ドメイン知識が予め共有されていることは非常に大きいです。
サーバーレスでコストが下がると何がよいのか
もちろんシステムの観点からも、サーバーレスに移行することで、インフラ管理にかかる固定費を抑え、そのリソースを別のことに向けることができるようになります。クラウドを理解した内製チームがサーバーレスで開発すれば、いわゆる「クラウドコスト」を最小化できます。内製化で根本的なレイバーコストも下がって、クラウドコストも最低限になるということです。
もちろん、いきなり全てを内製化することが、すべての事業会社にとって最適解であるとは限りません。その会社の基幹システムの状況や内製チームのスキルレベルなども鑑みて、段階的に内製率を引き上げていくことや、あるいはどうしても外注部分が残さざるをえないなど、さまざまなケースがあります。ここまでは内製するけど、そこから先は外注で割り切るようなこともあります。
基本的な考え方として、内製チームには会社の未来を作っていく、発展性のある部分をより託す、そんな文脈で検討されている企業が多い印象です。これまでは、ほぼ全部を外注していた状況を脱して、できるところから内製化する。その過程で、ITの内製をごく当たり前の社内文化にして変えていこう、そんな向き合い方で取り組まれている事業会社が増えています。
内製化の副次的なメリットとして、社内にシステム開発の知見が蓄積する点も見逃せないポイントです。自分達がシステム開発の知見をもつことで、外注が必要となった場合に工数や仕様の正当性を見極めることができるようになります。自分たちで内製できない部分であっても、コスト構造のブラックボックス化を防ぐことができるわけです。外注で開発たシステムを、「手の内化」するようなイメージがとも言えます。
これも広義の内製化に含まれると考えます。実際に、「ドメイン変更を依頼しただけで50万円請求された」なんてケースを聞くこともありますが、そんな「知らなかった」ゆえに見逃していた余計なコストも抑えられます。内製の比率を増やすことによって、ノウハウの蓄積であったり、社内メンバーのスキル向上だったりといった部分においても、コスト最適化には効いてきます。
サーバーレスはベンダーロックイン?
コスト最適化の流れで言うと、サーバーレスのように特定のサービス依存での開発について、「ベンダーロックイン」のリスクについて心配される方がときおりいらっしゃいます。AWS以外にもGoogle CloudやMicrosoft Azureといった選択肢がある中で、クラウドサービスのスイッチングコストをどう考えるべきか、AWSが急にサービス自体を停止する、あるいは料金設定が急に10倍に跳ね上がる、そうしたリスクにどこまで構えておく必要があるのか、という論点ですね。
もちろんリスクはゼロではありませんが、そこは考えても仕方がない部分だと思っています。クラウドが普及した結果、企業だけでなく公的機関や学校においても広く利用される「社会インフラ」となっています。また、オープンなユーザーコミュニティの存在がベンダーへのプレッシャーとなり、サービスの安定性を保つ要因にもなっています。
結局、サーバーレスの良さとは、アイデアをすぐ形にして、ビジネスを作りながらフィードバックを受けて、というイノベーションサイクルをどんどん回していくところにあります。サーバーレスという仕組みに「乗っかって」、クイックにビジネスを広げていく方が、予見できないリスクを心配し続けるよりも成功の道筋へつながっていくのではないでしょうか。サーバーレスオペレーションズでも、そうしたお手伝いができればと考えています。