1から10ではなく1から3をできるIT人材が必要
――DX推進室ではIT人材の育成に取り組んでいらっしゃるとのことですが、建設会社が求めるIT人材とはどのようなものでしょうか。
宮崎 DX推進室の役割は、名前の通り全社的なデジタルトランスフォーメーションの推進と、IT人材の育成があります。私たちの会社は日本全国に支店があり、さらにその先には年間で300以上の建築や土木の現場が稼動しています。
こうした現場にもさまざまなITツールが入って来ていますが、なかなか受け入れられなかったり、十分に活用できていなかったりすることがあります。こうした状況を受け、自分たちの課題に対して、ITを使った解決に取り組むことができる、そんな現場の人材を増やして行きたいと考えています。
そこで、最初の取り組みとして、全社に対して募集を掛けて応募して来たなかから、一定期間以上現業に携わった30名の社員を選抜し、東洋大学情報連携学部(INIAD)によるリカレント教育を受講してもらい、新たなデジタルスキルを身につける人材育成を開始しました。そして、そこからさらに試験等で絞り込んだ10名が、昨年10月からDX推進室に加わりました。栗本と宮路もその社内選抜を経て加わったメンバーです。彼らは、DX推進室で2年間、ITについて学んでもらい、ゆくゆくは支店や現場に戻り、そこで活躍してもらう教育構想となっています。
労働人口が減少するなか、建設業界の人手不足も深刻になってきています。そうしたなかでも、より少ない人数で、これまでと同じ仕事の質を達成するには、やはりITの力が必要です。ただし、いきなりIT開発を1から10まで1人でできるような、レベルの高いIT人材を増やそうとしているわけではありません。私たちに必要なのは、システムやサービスを自分で企画し、モックを作ることができるくらいの、まずは1から3くらいまで出来る人間が、社内に10~20人程度いるようにすることです。
――そうしたIT人材の育成において、Serverless Operationsにはどのような形で支援を依頼したのでしょうか。
宮崎 DX推進室では4~5名のチームに分かれて、AWS上で開発を行っています。社内選抜でDX推進室に加わった新たなメンバーのほとんどが、IT開発の経験がまったくありませんでした。ですから、リカレント教育、Udemyなどのeラーニングで基礎を学んでもらうのと並行して、Serverless Operationsさんによるインフラ設計やフロントエンド開発などの講座を設置してもらい、2週間に1~2回のペースでやってきました。
その後は、チームごとにプロダクト開発に取り組んでいます。そのなかで、企画や要件定義、設計、コーディングなど各フェーズごとに疑問点が出てくるので、Slackで質問したり、Webミーティングツールで画面を共有しながらアドバイスをもらったり、ということをやっています。初期にはVR空間でのバーチャルオフィスを用意して、毎週決まった曜日にServerless Operationsさんに待機いただいていました。その時は、質問待ちで社員の行列ができることもありました。
堀家 多くの企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組むなかで、ITツールの内製化へのニーズが大きくなっており、私たちへの依頼の7割くらいが今回のような形式になって来ています。
IT業界に限らず多くの業界において、ITで解決できる課題が多くなっているなかで、従来のように外部の開発会社に依頼するのでは、時間も手間も掛かります。また、本当に必要とするものが出来なかったり、開発に失敗したりするリスクもあります。
それに対して、クラウドによって開発のハードルが下がってきたことから、自分たちの課題は自分たちが一番よくわかっている、ということでITの内製化に取り組む会社が増えてます。
一方、私たちにとっても、単純な「こういうアプリを作って欲しい」という開発依頼は、「動けば何でも良い」ということになりがちで、クラウドの尖った領域に強い会社である私たちとしては、あまり技術的な強みを活かすことができません。
それよりも、それぞれの事業会社が、自分たちが必要なものを自分たちで作ろうとする、さらにそれをクラウド上で実現する、そのために必要なことの支援は、その会社にとっても私たちに取っても良いことですし、これからの時代に合った形だと思っています。